フードビジネスでの耳障りの良いスローガンはビジョンではない

「バランス・スコアカード」は、複雑で実体が掴みにくいところがあるという問いかけに対して、「バランス・スコアカード」の研究の先駆者であられる、横浜国立大学大学院教授、エジンバラ大学教授の吉川武男先生は、こう述べられております。

 

「バランス・スコアカード」は、自動車におけるカーナビゲーションのようなもので、目的地(ビジョンと戦略)に向けた具体的な経路を「戦略MAP」で可視化してくれます。

「バランス・スコアカード」は、ビジョンと戦略をアクションプランに落とし込むための仕組みも提供しています。

なかでも特徴的なのが、目標の達成度を数値で測る「重要業績評価指標(KPI)」の利用でしょう。

数値化できないものはマネジメントできません。

財務指標以外のものでも、その気になれば数値化できるものです。

 

しかし、それ以上に重要なのが、「バランス・スコアカード」のすべての要素は「ビジョンと戦略」に基づいているということです。

「戦略MAP」「KPI」も、ビジョンからかけ離れたものであってはなりません。

そうすると、「ビジョン」がとても重要になります。

ここが日本企業の弱点です。

日本企業のビジョンは、慈善団体のようなものが多いのです。

ビジョンは、あいまいで聞こえのいいスローガンとは違います。

「○年後までに△□を達成する」といった具体的な目標であり、コミットメント(約束)であるべきです。

というように、吉川武男先生は、「ビジョンなきバランス・スコアカードは無意味」と説かれておられます。

さらに、「バランス・スコアカード」は経営そのものに密着した仕組みですから、まず経営トップが導入や運用に積極的に参画し、責任を持つということが絶対に必要です、と説かれています。

 

中小規模のフードビジネスや個人の飲食店経営においては、いかに具体的な目標であり、コミットメント(約束)である「ビジョン」を明確にすることは非常に重要です。

耳障りの良いスローガンや号令は、利害関係者である取引先や外部関係者にとっては、「素晴らしい」の一言で片付けられ、経営者は心地よいものです。

しかし、社内の従業員にとっては、自分の会社がどの方向にどのように進んでいき、そこでどう活躍できるのかという「何ができるかのか」ということを真剣に考えています。

 

吉川武男先生の言われる「まず経営トップが導入や運用に積極的に参画し、責任を持つということが絶対に必要です」とは、手段としてのバランス・スコアカードの運用のことではなく、「ビジョンと戦略」という経営の要諦に責任を持つべきというメッセージであると理解しています。

 

従業員10人の小規模飲食店でも方向性が見えなくなる

※「共創戦略研究所」とは、NPCが福岡市で運営するプロジェクト支援事業で、NPCとはネクスト・プラクティス・コンサルティングの略です。